●山岳ヘリ救助の有料化条例 遭難者の判断鈍らせる 埼玉県議会で自民党が提案


 「無謀な登山防止」いうが・・・

埼玉県内の山で遭難し、消災へーリコプターで救助されたら有料になる─自民党県議団がこんな条例案を2日、議会に提出しました。公的なへリ救助を有料化するのは全国で初のことです。同案は県内で登山者を防災ヘリが救助した場合に、手数を徴収するというもの。の額は「知事が告示で定める」としていますが、燃料代にあたる5万円程度になるといいます。施行は来年1月1日から。県警ヘリは対象外です。

自民党は「山岳救助の有料化で登山者の注意が喚起され、無謀な登山の減少にもつながる」と、山岳遭難を抑止することが目的だと提案理由を説明しました。

同県では2010年にも同党が、山岳救助中の防災へリが墜落した事故を理由に有料化を検討しましたが、反対意見が多く実現しませんでした。長野県や富山県も有料化を断念しています。

消防の信頼頼失

防災へリ運用の調査研究をしている全国航空消防防災協会も05年に有料化について検討しましたが、「(救助が必要でも費用が払えないために要請ができないことがあれば)消防の根幹をゆるがすことになってしまう」「(救助に感謝する)国民から料金を徴収することは消防の信頼を失うことにも繋(ゆな)がる」と否定的な結論を出しています。

有料化で無謀な登山を減らるでしょうか。

登山の法律問題に詳しい溝手康史弁護士が「有料化のメリット(利点)はなく遭難防止にはならない」と主張するなど、山岳関係者はその効果を疑問視します。

さらに、溝手弁護士は「なぜ山だけが有料なのか。ある地域だけ有料化するとなれば公正ではない。救急車や消防車、パトカーは無料なのになぜヘリは有料なのか」と公平性に問題があることも指摘します。

「有料化の背景には。〝安易な救助要請〟の強調がるが、無謀な登山でヘリを呼ぶのはごく一部だ」。こう説明するのは山岳遭難を研究する関西大学の青山千彰教授です。

大半の登山者は、けがをしでも救助要請を我慢する傾向が強いため、「へリ救助を必要とする遭難者の判断まで鈍らせるような条例の制定は、避けるべきだ」と同教授は主張します。 安易かどうかの判断も難しい。「ちょっと疲れたという登山者を休ませて、先に行き、帰ってきたら亡くなっていたという事例もあります。

青山教授は「山では単なる疲労か重篤な疾患の前症状なのかは、専門医でも判断は難い」と言います。

予想きれる混乱

アルプスを抱る山岳救助にヘリが年間1万回以上出動するドイツやイタリアに比べて、日本は1500件程度。埼玉県の防災ヘリによる山岳救助は14年度が28件(県内25件)、15年度は15件(同11件)でした

日本共産党の村岡正嗣(まさつぐ)県議は、「県境での救助活動は、どちらで事故を起こしたか、どちらで救助したかで有料か無料かが違ってくる。現地で混乱が予想される」と条例案の問題点を挙げています。多くの登山者は危険を自覚し、遭難しないようにしっかり備えていることを示し、条例案に反対します。

「登山をスポーツ・文化として発展させるためにも、登山道の整備、気象や山の情報提供といった環境整備で遭難を防ぐことが、行政の果たすべき責任だ」。村岡県議は強調します。  (青山俊明)

(「しんぶん赤旗」3月5日付より)