県議の教科書採択不当介入 「二度と許さない」の声大きく

埼玉県議会で、県教育委員会の高校日本史教科書採択に対し、一部の議員が採択の見直しを迫る不当な政治介入を行いました。県民や県内の教育関係者、弁護士らから批判の声が上がっています。(埼玉・藤中陽美)

 

自民党県議らでつくる「県議会教科書を考える議員連盟」は8月中旬に、「日の丸・君が代問題」で「一部の自治体で強制の動きがある」と記述した実教出版の日本史教科書を問題視し、県教委に同社の教科書を採択しないよう求める要望書を提出しました。

これに対し、県教委は現場の判断を尊重し、すべて学校選定の通りに採択しました。

しかし、採択結果を受けて、日本共産党のいない県議会文教委員会(田村琢実委員長)は9月に2回にわたる異例の閉会中審査を開催し、実教出版の教科書を選定した8校の校長を呼び出して質疑を行うなどして、県教委に対して執拗に採択の再考を迫りました。一部の委員は「日の丸・君が代」問題や「南京大虐殺」の記述を挙げ「このような偏った教科書は『自国や郷土に誇りを持てる』という県の教育方針に沿わない」などと同社の教科書を攻撃。執筆者の経歴などについて事実を歪(ゆが)めた発言を繰り返しました。

その後、この問題の責任をとる形で、清水松代教育委員長が9月24日、辞任しました。

 

決議を強行

さらに、9月20日に始まった9月議会でも連日、教科書問題について質問がされ、議会最終日の10月11日には、本会議で「高校日本史教科書採択の再審査を求める決議」が賛成多数で強行されました。

日本共産党は決議に反対しました。討論に立った村岡正嗣県議は、各学校が生徒の実情にあった最適な教科書を自由に選定できることが大切だと強調し「県教委が十分な討議の上、教育委員会の権限を責任のもとで行った採択結果を、県議会は尊重すべきだ」と主張。他会派の議員からも「日本を悲惨な戦争に導いた軍国主義教育の過ちを忘れてはならない」など反対意見が相次ぎ、賛成した会派は自民党と保守系会派「刷新の会」のみでした。

県教委は10月15日、採択結果を変更しないことを改めて表明しましたが、実教出版の日本史教科書を選定した学校の教員からは「来年どうなるのか不安だ」との声が出ています。

 

広く知らせ

県内では、教育への政治的介入を二度と許さないために、幅広い県民による運動を広げようとの機運が生まれています。

10月25日、教科書問題を考える県民集会(主催=子どもと教育・文化を守る埼玉県民会議)が開かれました。

集会で発言した小林善亮弁護士は、最高裁旭川学力テスト判決(1976年5月21日)を紹介し、憲法の下での学校教育では、国は子どもの学習権を充足させる義務を課せられており、国や行政が自分たちの考えを子どもに押し付ける権限はないと強調。「政治家が自分たちにとって都合の良い教育をしろと迫ることは、教育の自主性を歪める不当な支配だ」と批判しました。

 


 

学校の選定尊重を

藤田昌士元立教大学教授の話

県教委が、各学校がカリキュラムや生徒の実情に合わせて慎重に選定した教科書を尊重したことは、主体的な判断です。

一部の県議は「自国や郷土への誇り」と言いますが、過去の戦争の加害の歴史に目を閉ざして生まれる「誇り」は本当の誇りとは言えないと思います。この問題を教員や父母、県民に広く知らせ、草の根で「子どもにより良い教科書を」の声を大きくしていくことが必要です。(赤旗2013年11月16日付より)