さいたま市大宮区の三橋公民館が、同館俳句サークル会員が「9条守れ」と訴えるデモを詠んだ俳句の「公民館だより」(館報)に掲載することを拒否したことが、7月上旬に判明しました。市民からは「表現の自由を侵すものだ」と批判の声が上がっています。(埼玉県・藤中陽美)
市民から批判
掲載を拒否されたのは「梅雨空に『九条守れ』の女性デモ」の句。同サークルでは、毎月会員の作品を1句選び「公民館だより」に掲載していたといいます。
日本共産党市議団や市民団体は相次いで抗議し、俳句作者への謝罪と今後の「公民館だより」への掲載、再びこのような言論・表現の制限を行わないよう求めました。
しかし、稲葉康久教育長は7月29日の定例会見で、「世論を二分する問題」をテーマにした作品は載せられないとした公民館の決定を支持し、今後も掲載をしない考えを示しました。
清水勇人市長も7月17日の記者会見で、公民館の判断を「おおむね適切」だと述べました。
日本共産党の山本ゆう子市議候補(大宮区)は「公民館の判断は憲法で保障された表現の自由を侵害し、ものが言えない社会につながります。憲法を守るべき公務員が、それに反することをするべきでありません」と話しています。
住民の学ぶ権利奪う
公民館が市民の俳句作品を館報に掲載することを拒否した問題―。旧浦和市と、さいたま市で公民館の館長を歴任した片野親義(ちかよし)さん(69)=元大東文化大学非常勤講師=はどう見ているでしょうか。(聞き手 埼玉県・川嶋猛)
元大東文化大非常勤講師
片野親義さん
公民館の職員を38年間務めましたが、こんなひどい問題が起きたことに衝撃を受けました。掲載拒否は、社会教育機関である公民館が行ってはならないことです。
市は自分たちが行った事の重大性を認識していないのではないでしょうか。市長は記者会見で「おおむね適切だった」と述べていますが、その根拠を示していません。教育長は「世論を二分する題材は載せない」とする一方で、「公民館での自由な活動は保障する」と言っています。明らかに矛盾しています。
憲法に挑戦
館長は、俳句を不掲載にした理由の一つを、社会教育法第23条で公民館が行ってはならないとされている行為のうち、「特定の政党の利害に関する事業」に触れるからとしています。しかし、俳句は、どう読んでも「特定の政党の利害」に影響を与える作品ではありません。
それに、第23条は公民館自らが行ってはならない行為を規制するものであって、住民の表現の自由、学ぶ権利を守るために定められている条文です。館長は、この条文を勝手に解釈し、利用者が行ってはいけないことのように誤認してしまっているのです。
もう一つの理由として、市の広告掲載基準をあげ、その中の「国内世論が大きく分かれているもの」にあたるとしています。しかし、この基準は、民間業者の広告を対象にしたもので、掲載拒否の根拠となり得ないことは明らかです。
市は「『九条守れ』のフレーズが公民館の考えであると誤解を招く」と言っていますが、俳句会の人の作品であることを住民は知っています。だから、誤解される可能性はないと思います。
公民館を規定する社会教育法、教育基本法に貫徹している理念は、憲法第26条が定める「学ぶ権利を保障する」ことです。従って、今回の市の行為は憲法に対する挑戦だとも言えます。
言論の統制
市の行為の問題点は三つあります。一つは、学ぶ権利を奪う行政の横暴な行使だということです。二つは、社会教育行政を使った言論統制であることです。黙っていたらどんどんひどくなり、戦前に復帰する危険な動きです。そして三つに、市長や教育長、館長の社会教育や公民館に対する認識が低すぎるということです。
法を無視し、勝手な解釈を住民に押しつけるやり方は、安倍内閣の手法と同じです。今回の問題は、自治体が主権者である住民と自治(平和・民主主義・人権など)の論理を構築することができないでいる状況を表しています。自治体行政の危機的状況を露呈していると思います。
(赤旗2014年8月8日付より)