埼玉県は高齢化のスピードが全国一速く、過去10年間の県政世論調査でも、県政への要望は「高齢者の福祉を充実する」が1位か2位の上位を占めています。しかし、高齢者を支える介護施設では、事業者も職員も深刻な人手不足に悩まされています。厳しい環境の中で働く介護労働者の実態を見ました。(埼玉県・藤中陽美)
展望持てぬ低賃金 待遇改善急務
「給料は手取りだと月20万円」にも届かない。職場を辞めていく人も多く、いつも人手不足です」。こう話すのは、県内の特別養護老人ホームで働く正職員の男性(26歳)です。実家暮らしで、母子家庭のため兄と自分の2人の収入で生活しているといいます。「奨学金の毎月返しているから、生活はギリギリ。行政は本気で職員の処遇を改善してほしい」と語ります。
公益法人「介護労働安定センター」が発表した2015年度介護労働実態調査結果の埼玉県版(県内374事業所と介護労働者889人が回答)によると、県内にある介護事業所の離職率は18.7%で、離職者のうち勤続3年未満の労働者が73.6%を占めています。
過去に介護関係の職場をやめた経験のある人に理由を聞くと、「収入が少なかったため」(19.4%)「自分の将来の見込みがたたなかったため」(同)などの回答がありました。
不足6割超す
従業員の過不足について、「大いに不足」「不足」「やや不足」と回答した事業所は、合わせて62.1%に上り、労働者の「働く上での悩み」の1位も「人手が足りない」(48.4%)です。
労働者が挙げたほかの悩みは、「仕事内容のわりに賃金が低い」(42.6%)「有給休暇が取りにくい」(31.2%)などがあります。
事業者に介護サービスを運営する上での問題点を聞くと、安倍政権が介護報酬を引き下げるもとで、「今の介護報酬では人材確保・定着のために十分な賃金が払えない」との回答は51.2%に上ります。ほかに、「良質な人材確保が難しい」(56.6%)などの回答がありました。
県医療介護労働組合連合会執行委員(介護担当)の竹永仁志さんは「労働者は、仕事内容の割に賃金が低いから人手が足りず、有給休暇が取りにくい。事業所は、介護報酬が低くて十分な賃金を払えないから人が集まらず、『誰でもいいから来てくれ』となり、良質な人材確保が難しくなる。問題はすべてつながっています」と指摘。「特に男性は『将来の見込みが立たない』『この収入では結婚・子育てできない』と辞めていく人が多い」と話します。
県内介護労働者の月額所定内賃金は男女平均で23万7577円。男性では全業種平均の33万2000円(女性は23万9900円)とは、大きな差があります。
県に抜本対策要求
日本共産党埼玉県議団はこの間、県に介護労働者の処遇改善のために県単独事業の処遇改善費を復活させるなど、介護労働者の確保策を抜本的に強化するよう求めてきました。
柳下礼子党県議団長は「調査結果からもわかるように、介護報酬が少なすぎます。ヒトがどんどん辞めていけば残った労働者に負担がいき、介護サービスを受ける側も十分な介護が受けられません。介護労働者が安心して仕事を続けられ、質の良い介護ができるようにするため、国も県も処遇改善に力を入れるように求めていきたい」と話しています。
(2016年10月30日「しんぶん赤旗」より)